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知らない街を気ままにぶらぶら(宇都宮さんぽ 前編)

2018年3月21日|てらしまちはる

知らない街には知らない出会いがあるはず。気ままに宇都宮をぶらぶらしてみました。

宇都宮にきています。午前中早々に用事が済んで、夕方までぽっかり予定が空いてしまいました。そういえば私、宇都宮のことをほとんど何も知らないなあ。

せっかくなので、ぶらぶらしよう。旅行ガイドも何も見ず、勘だけを頼りに歩き出します。


忽然とあらわれた石造りの教会


東武宇都宮駅あたりにいた私は、東にあるJR宇都宮駅を何となく目指してみることに。街並みを眺めながら、気の向くまま小道に入ってみたり、猫を呼びとめたりのさんぽです。駅の近くだけれど、人の暮らす民家が肩をならべて、のんびりした雰囲気。


唐突に、ヨーロッパで見たような本格的な教会に出くわしました。重厚感ある石造りの大きな建物です。途端に、あれ?と目が離せなくなりました。


青空にそびえる石造りの本格教会 青空にそびえる石造りの本格教会


入り口や窓の丸っこい形が、ロマネスク様式のそれの気がするのです。建築にくわしいわけではありませんが、美術書で興味深く眺めた写真群によく似ています。あ、入り口が開いてる。どうやら見学自由のようですよ。ちょっとお邪魔してみましょう。


特産の石がふんだんに、シブカワいいカトリック教会


石造りは外側だけではありませんでした。室内も細部まで、白っぽいざらざらした石で造られています。ここは「カトリック松が峰教会」の聖堂で、石は地元で採掘された「大谷石」でした。


聖堂内にも大谷石がぜいたくに使われる 聖堂内にも大谷石がぜいたくに使われる


柱のレリーフには創立年の彫りこみも

大谷石は、宇都宮市北西部の大谷町付近一帯で古くから採掘されてきた石材です。軽石の一種で、やわらかく軽いため加工がしやすく、耐火性にも優れています。この教会はそんな大谷石を使った建造物で、現存する最大のものだそうです。


壁に直接彫られたシンプルな十字架がかわいい 壁に直接彫られたシンプルな十字架がかわいい


陽をうけてかがやく入り口の色ガラス 陽をうけてかがやく入り口の色ガラス


一方、建築様式はやはりロマネスク様式で正解。スイス人建築家の手で設計され、昭和7年に完成したと説明書きにありました。西洋の方式に則りながら、土地の特産品でもある石材で地元の人のために建てられた教会。80年以上もの間、宇都宮を見守ってきたのですね。お祈りの仕方がわからないので、仏教式でもいいのかな。手を合わせ、いいものを見せてもらったお礼を神様に伝えました。


小さなカードに聖書の一節が 小さなカードに聖書の一節が


ほの暗いロマネスク教会。おごそかな気持ちになる ほの暗いロマネスク教会。おごそかな気持ちになる


外壁にいたカエルくん(?) 外壁にいたカエルくん(?)


見学を終えてさんぽを再開。教会の周りの家々の塀や蔵をあらためて眺めると、教会と同じ大谷石がよく使われていましたよ。


レトロな喫茶店に立ち寄ると



ちょっとお腹が空いてきました。今日は朝ごはん、まだだったなあ……。もうすぐ11時だし、ブランチ的なやつで済ませようかな。


その時、ちょうど開いているレストランを見つけました。おや、カレーが食べられるみたいです。70年の歴史ある「黒カレー」ですって、なんだかおいしそうだなあ。喫茶「AKAI TORI」、童話雑誌のような名前ですね。またもや、ふらりと吸いこまれてしまいました。


写真左が入り口、喫茶「AKAI TORI」 写真左が入り口、喫茶「AKAI TORI」


「黒カレーください」と注文し、レトロな店内を何気なく見回します。するとテーブルに、メニューとは違う紙のファイルを見つけました。何だろう? これ。


歴史のつまった手製ファイル 歴史のつまった手製ファイル


それはお店の来し方がくわしく書かれた、めっぽう面白い読み物でした。この「AKAI TORI」という喫茶店は、和菓子屋「春木屋」の「喫茶部」だということ。春木屋は、「13回職業を変えた」初代店主が昭和23年に創業したこと。その彼の豪放磊落ぶりをしめすエピソードを中心に、戦前から戦後にかけての様子が町場の人の目線で語りきれないほどに語られます。


黒カレーは歴史薫る味


さっき私が頼んだ「黒カレー」の誕生譚もありましたよ。これも初代が戦後「進駐軍のコックからレシピを教えてもらった」ものだそうです。70年の歴史って、これかあ! 2代目、3代目と改良が加えられ、今の味になったんですって。


時を忘れて読みふけっていると、くだんのカレーが運ばれてきました。たまねぎのような香ばしくて濃い香りが、ふうわり鼻をくすぐります。偶然立ちよったお店で出会えたのが奇跡のような気がして、ひとすくいずつ、いつもより時間をかけてゆっくり味わいました。


その名の通り、黒い「黒カレー」 その名の通り、黒い「黒カレー」

これまで食べたどんなカレーよりも、深いコク。野菜や肉はもとの形をとどめないほどに煮込まれ、スプーンにのせればまったりしているのに、口の中では香ばしくほどけて本当においしい。長い時間の中で、何人もの人の手を経てここに立ちあらわれたひと皿です。これだけのために宇都宮に来てもいいくらい。大好きな味をまたひとつ見つけました。


満足しきって、お店を後に。さて、JRの駅はどっちだったかしら。宇都宮さんぽは後編へつづきます。


この記事を書いた人

てらしまちはる Chiharu Terashima |ライター

児童書編集を経て、フリーライター。専門分野である絵本、こどもアプリの話題を中心に、ウェブ媒体や雑誌で執筆中。2016年より始めたイタリア・ボローニャブックフェア独自取材を今年『ボローニャてくてく通信』として発表する。

ボローニャてくてく通信
・Facebook:https://www.facebook.com/bolognatektek/
(2018/3/1公開)
・公式HP:http://terashimachiharu.com/

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