まゆ玉細工 - カイコが咲かせる大輪の花
2017年1月19日|てらしまちはる
店先に並んだブローチや盆栽。なにげなく見ていたら「ぜんぶ、まゆ玉でできているんですよ」と声をかけられました。えっ!? まゆ玉で……?
ふんわり繊細な花弁はまゆ玉で
ふんわり可憐な花のブローチ。うす淡い桃色の花弁は、本物と見まごうばかりです。
手にもつと、力を入れるのがこわいほどの繊細さ。ずっと眺めていたくなります。これが作り物であるというだけで、すでに驚きです。が、素材がまゆ玉だと知った途端、信じられない気持ちでいっぱいになってしまいました。「まゆ玉って、こんな形に変形できるんだ」と。
カイコとまゆ玉
ブローチを作ったのは、愛知県北東の山あい地域、豊田市稲武(いなぶ)地区の人々。まゆ玉で幅広い作品を作る地元グループ「まゆっこクラブ」に所属する60~80代のおばあちゃんたちが、まゆ玉をうすくそぎ、部分的に着色して作りました。
裏側から見ると、まゆ玉とよくわかる
まゆ玉は、蚕が吐く糸でできています。まゆ玉を煮て、とりだした糸が絹になります。軽くて丈夫な高級品・絹織物は、まゆ玉から生まれるんですね。まゆっこクラブで細工に使うまゆ玉も、同じように生産されたものです。
夫婦合作! 山に春を告げる節分草
こちらは、やはりすべてまゆ玉でできた盆栽です。稲武の山に春いちばんに咲く山野草、節分草をモチーフにしています。
まゆ玉細工の節分草の盆栽
まだ寒い時期に花開く植物の、凛とした姿が、本物の節分草が咲いているのを見たことのない者にも伝わってきます。すばらしい表現力です。
土台の焼き物は、この細工の作者の旦那様が焼いたオリジナル作品だそう。夫婦合作でこんなにすてきなものを生み出せるなんて、うらやましい限りです。
店先に並んだまゆ玉盆栽。本物のようだ
クラブは文化の伝え手
稲武はかつて、養蚕がさかんな地域でした。昭和30~40年代がその最盛期でしたが、時代の移り変わりとともに産業は衰退。平成9年には、ついに最後の生産者もいなくなり、自然消滅してしまいました。
こうして、稲武から産業としては消え去った養蚕ですが、地元を支えてきた文化を後世に伝えようとの思いから、翌平成10年に「まゆっこクラブ」が立ち上がりました。主な活動内容は、養蚕スキルの伝承と、まゆ玉や絹を使った作品作り。花のブローチや節分草の鉢は、そんな人々の動きから生まれたものだったのです。
まゆっこクラブ
黄色い糸でどんぐりを
どんぐりの枝飾り
黄色いどんぐりがたわわに実った、かわいらしい枝飾り。お正月飾りの「餅花」に、どことなく似ています。生花が少なくなる秋冬に、花瓶に一本さしておくだけで、部屋の印象をぱっと明るくしてくれそうです。
枝先についたどんぐりの実の部分が、まゆ製です。あざやかな黄色は染めたものかと思いきや、なんと自然の色。黄色い糸をはく種類の蚕からとれます。深みがありつつも、華やかさをあわせもった上品な色合いです。
筆者はこれら3つの品々に、名古屋市内のとあるイベント会場で出会いました。まゆっこクラブでは、養蚕文化をひろく知ってもらうため、中部地方を中心にさまざまな場所でイベントを開催しているのです。
イベント会場では、まゆっこクラブのメンバーが作った作品の数々が購入できるほか、「まゆの糸ひき」の様子を間近で見られることも。0.01センチのか細い繊維を、いくつものまゆを煮てとり出し、よって太くするところは、魔法を見ているかのようです。
イベントでの糸ひきの様子
現在、まゆっこクラブの作品を購入できる場は出張出展されるイベント会場か、地元の道の駅「どんぐりの里いなぶ」のみ。ネット全盛の現代において、自分で足をのばさないと手に入らない出会いは、逆に貴重でもあります。
繊細な作品たちに興味がわいたら、ぜひともお出かけを。まゆ玉細工の美しさとおもしろさに、きっととりこになるはずです。
この記事を書いた人
てらしまちはる Chiharu Terashima |ライター
児童書編集を経て、フリーライター。専門分野である絵本、こどもアプリの話題を中心に、ウェブ媒体や雑誌で執筆中。2016年より始めたイタリア・ボローニャブックフェア独自取材を今年『ボローニャてくてく通信』として発表する。
ボローニャてくてく通信
・Facebook:https://www.facebook.com/bolognatektek/
(2018/3/1公開)
・公式HP:http://terashimachiharu.com/
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