絶滅からよみがえった日本産線香花火、その大輪の「花」
2016年7月20日|てらしまちはる
白を基調にした、淡い配色のこより紙。福岡県の筒井時正玩具花火製造所が作る線香花火「花」です。花火そのものが、目の覚めるような美しさ。
国産線香花火は「起承転結」がはっきり
真っ白な茎の先に、黄色や青のつぼみ。咲き誇る、うす桃色の花――。これまでの線香花火とはまるで違う、デザインの斬新さをたたえる「花」。はかなく美しいこのアイテムには、地元九州産の材料がふんだんに使われています。
宮﨑県産の松煙を使った火薬は、きっかり0.08㌘。最後まで火の玉が落ちないよう、細心の注意を払って一本一本職人が包みます。この和紙は、福岡県八女の手漉き和紙を天然染料で染め上げたものです。
丁寧に生み出された線香花火は火をつけた時、暗闇の中で「起承転結」をはっきり披露してくれます。じりじりとふくれる火の玉と、刻々と表情を変える火花、そして潔い結末。堂々として、けれどおしつけがましくない有様は、海外製の大量生産品には決してまねできないものでしょう。
線香花火の東西くらべも
RIN|筒井時正玩具花火製造所
筒井時正玩具花火製造所「花」。花びら部分は持ち手だ
国内で現存する線香花火製造所は、たった3軒。筒井時正玩具花火製造所はそのうちの1つです。ここで作られる線香花火は「花」の他にもあります。特に東西くらべができる「東の線香花火 長手牡丹」「西の線香花火 スボ手牡丹」は人気です。
東西の線香花火|筒井時正玩具花火製造所
線香花火は1659年、江戸で誕生。かけ声でおなじみの「鍵屋」が、隅田川の葦の管に火薬を入れた玩具花火が、はじまりといわれます。実は「西の線香花火」は、そんな初期の花火に近い形。江戸の人はこれを香炉にさし、立たせた状態で火をつけて楽しんでいたそうです。
東西の線香花火は見た目がだいぶ違う
しかし、関東には材料となる良質の葦が多くはありませんでした。江戸の線香花火はしだいに、「長手」とよばれる紙のこよりのものが主流になります。「東の線香花火」がこれで、今日広く親しまれているタイプですね。
手仕事の美しさは見飽きることがない
ちなみに草の茎を使う前述の「スボ手」は、関西圏に伝わったのち定着。今でも関西の一部地域では「線香花火といえばスボ手」という所があるのだそうです。商品名に「西の」とついているのは、このためです。
国産線香花火は一時、絶滅した
山縣商店/線香花火 純国産/大江戸牡丹
江戸時代に大人気となり、以降300年。線香花火はすっかり、日本の夏に欠かせない遊びになりました。けれど日本産は1998年に一度、絶滅した過去があります。
安く生産できる海外産におされて、国内の製造所がすべて廃業してしまったのです。事態を憂い復活に尽力したのが、東京の山縣商店という花火問屋の5代目、山縣常浩さんでした。
問屋だから、作り方に関しては何もわからない。製造法も材料も、どうやって調達したらいいのか……。わからないまま、とにもかくにも山縣さんは奔走します。
軌跡が重なり、2000年に復活
ひょんなきっかけで、伝統の製造レシピをまず手に入れました。これはなんと、知り合いの花火業者の妻が嫁入り道具に持参したものだったそう。また、一子相伝で作られる火薬の調合にも苦労しますが、上手く火花の出る配合をなんとか仲間と探りあてました。
数々の軌跡が重なり、2000年に純国産の線香花火「大江戸牡丹」がみごと復活したのです。これが完成した後、国産線香花火を復活させる取り組みが方々で起こるようになり、現在に至ります。
さて、ここで紹介した「花」も、そんな流れの中の一つ。絶滅の危機から返り咲いた大輪の花と思うと、少し握る手が緊張してしまうでしょうか。大丈夫、肩の力を抜いてリラックス。だって、夏は楽しむものです。今宵、光の花びらがあなたの手から舞落ちます。
筒井時正玩具花火製造所
線香花火の起承転結。4段階あり、順に「蕾」「牡丹」「松葉」「散り菊」と呼ばれる
この記事を書いた人
てらしまちはる Chiharu Terashima |ライター
児童書編集を経て、フリーライター。専門分野である絵本、こどもアプリの話題を中心に、ウェブ媒体や雑誌で執筆中。2016年より始めたイタリア・ボローニャブックフェア独自取材を今年『ボローニャてくてく通信』として発表する。
ボローニャてくてく通信
・Facebook:https://www.facebook.com/bolognatektek/
(2018/3/1公開)
・公式HP:http://terashimachiharu.com/
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