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国民的絵本作家が郷土を描いた「あかべこのおはなし」

2016年7月6日|てらしまちはる

絵本の世界にも「シブカワ」あり。なかでも、とっておきの一冊『あかべこのおはなし』をピックアップしました。あの国民的絵本作家が、福島の地方民芸品を主人公に描いたお話です。

「こぐまちゃん」の国民的絵本作家による絵本「あかべこのおはなし」


“あかべこのおはなし1”
『あかべこのおはなし』(わだよしおみ/文、わかやまけん/絵、こぐま社)の主人公は、民芸玩具のあかべこ。張り子製で、首がゆらゆら揺れる赤い牛のおもちゃです。福島では「幸せを運ぶ牛」「子どもの守り神」として、側に置く習慣があります。お土産品としても昔から親しまれているので、見たことのある方も多いのでは。

“野沢民芸 会津張り子” 会津張り子赤べこ|シブカワ百貨事典

ひとすじ縄じゃない、磐梯山への冒険


“あかべこのおはなし2”
あかべこが生まれたのは、会津若松の民芸品店。窓の外には、かなたの磐梯山が見えます。燃えるような赤い秋の山に心奪われ、買われた家から飛び出したあかべこ。

道中ではからすや蛙、いたちなどの動物に巡りあい、猪苗代湖や鶴ヶ城(若松城)へ。けれど、誰もあかべこを磐梯山まで連れていってくれなくて――。さて、あかべこは無事に憧れの地にたどり着けるのでしょうか? 続きは読んでのお楽しみとしましょう。


ここがシブカワ! 絵本『あかべこのおはなし』


民芸品や土地の名所を扱った内容が、シブい。でも、そこにカワいい要素が感じられるのは、すっきりとあか抜けた画風がポイントです。

昔話などの「土地」をテーマにした絵本の場合、墨で描いたようなタッチや日本の古い農村をほうふつとさせる絵柄がよく見られます。けれど『あかべこのおはなし』からは、それらがあまり感じとれません。

やさしい黄色に、やわらかくも映えるあかべこの赤。白、緑、赤と美しく色変わりする磐梯山。色数や構図を計算し、シンプルかつ親しみやすく仕上がった画面です。画家がグラフィックデザイン出身であると知れば、十分うなづけます。出版から約35年が経つのに、まるで古くさくありません。

“あかべこのおはなし3”

国民的絵本作家の作、震災をうけ復刊


初版は1980年。実は、過去には長らく在庫切れが続き、購入がほぼ不可能な時期がありました。そこに2011年の東日本大震災が発生。「美しい福島を描いたこの絵本を、地元の人に贈りたいので復刊して」との声が読者から寄せられ、20年ぶりの復活を遂げた経緯があります。

絵を担当したわかやまけんさんは、『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社)をはじめとする「こぐまちゃん」シリーズで知られます。同シリーズは、絵本にあまり関心のない人でも必ず目にしたことのある一冊。国民的絵本作家の一人といって間違いありません。『あかべこのおはなし』と見比べてみるのも一興でしょう。
“こぐまちゃんシリーズ” こぐま社

郷土の美しさに思いを深めさせてくれる絵本です。


この記事を書いた人

てらしまちはる Chiharu Terashima |ライター

児童書編集を経て、フリーライター。専門分野である絵本、こどもアプリの話題を中心に、ウェブ媒体や雑誌で執筆中。2016年より始めたイタリア・ボローニャブックフェア独自取材を今年『ボローニャてくてく通信』として発表する。

ボローニャてくてく通信
・Facebook:https://www.facebook.com/bolognatektek/
(2018/3/1公開)
・公式HP:http://terashimachiharu.com/

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